僕なりにたどり着いた「創作の最強アイテム」
(1)「メモ」こそ作曲の最強アイテム
前回のコラムでも書いたとおり、ひらめいたアイデアの逃げ足というのは非常に早い。
これはどんな分野においてもどうやら(よっぽどの天才でない限り)万人共通のようです。
そんなことに思いが至ったのは、林 望さんという人が書いた『書斎の造りかた』という本との出会いが結構大きかったんですけど。話題が執筆ということに至った章に出てきた記述をちょっと抜粋してみることにします。
…何か創造的なことを書くには、その「前段階」が必要で、それがメモです。これが筆記として、いちばん最初に起こる行為であり、
一番重要なものですから、断じてたかがメモとバカにしてはいけません。メモをどう使うかが、死命を制することすらあります。
(略)ものを書くということが、書斎のなかでだけ進行すると思ったら大間違いです。何しろ人間の精神的な営みは、四六時中
ずっと行われているわけです。そして、いつ、どこで、あたかも落雷のように、すばらしいアイディアが天から降ってこないとも
かぎらない。そうでしょう?
そのときに「ああ、いいや。家へ帰ってこれを書き留めておこう」と思ったら、もはやそれっきり。せっかくの天啓的アイディアは、
忘却の彼方に去って、二度とやってこない。これが人間の悲しい性(さが)であります。だから、なにはともあれ、思いついたその
ときに、即座に書かなきゃいけません。
…この文章に出会った時はかなりのカルチャーショックを受けました。この時から作曲ということと「メモ」というキーワードが自分の中で切り離せないものとなりました。作曲環境の整備には、「何らかのメモ環境」の存在こそ最重要である!という発想の転換が訪れたわけです。
(2)「作曲メモ」には、どんな道具を使うのが一番良いのだろう?
2006年の初め頃、日曜のテレビ番組『情熱大陸』でユーミンの特集をしていて、その中に自宅の作曲工房での様子を公開する場面がありました。
それはピアノを弾きながら浮かんだメロディーの断片をカセットテープに録音し、それをためておいて後からつなぎ合わせていくというものでした。
ユーミンの工房は、グランドピアノが広い部屋の真ん中にデーンとあって、周囲にノートパソコンや複数台の音源が乗っかった電気ピアノや、性能の良さそうなミニコンポその他が乗った机が設置されている…といったウラヤマシイ環境でした。ところがユーミン本人は、そんな数々のハイテク機材には目もくれず、ピアノの上に5000円も出せば買えそうな小さなラジカセを置き、これとピアノだけを使って曲を作りだしていたんですね。
じゃあ、ピアノはまあ良いとして、なぜ「ラジカセ」なのか?今の時代もっと良いものがいっぱい出てるし、お金もあるのに。その時はそう思いました。
ちなみに僕はその頃メモ環境の重要性を意識し始めた時期で、TASCAMの「POCKETSTUDIO-5」っていう記録型のポータブルミキサーを購入し、常時キーボードに接続していました。ところがその後、この「POCKETSTUDIO-5」にも、何となく違和感を覚え始めたのです。やっぱりね、シーケンスソフトの時の延長線上で「その気になってから、実際に使える状態になるまでの時間が長い」という点を、完全にはクリアできてないんですよ。たとえば電源にせよ、この機材とキーボード(コルグの01/W)の2つに入れて、それから01/Wをピアノの音色に設定して、音量調節して…というこまごました手順を経てからでないと、音が鳴らせない。
そう考えるとユーミン式の「アコースティックピアノ+ラジカセ」というのは、思い立ったら即録音体勢になっているという点で、非常に優れた創作アイテムだったわけですね。まあ、ひとつだけケチをつけるとしたら、ラジカセのテープを整理しておくのがちょっと煩雑なんじゃないかな、と思うぐらい。
…さて、僕自身の「現時点での創作環境」なんですが、上記のような過程を経たことと、ちょうど長男の学習机を同じ部屋に入れる時期が重なったこともあり、結局01/Wは片づけました。その頃に至った結論は
楽器に関してはたぶん、ベストの機材はアコースティックなものだろう、ということです。
理由は手にしたらすぐ音が鳴るから。で、その次にベターなのがクラビノーバみたいな、スイッチ1つですぐに音が鳴らせるものでしょうね。
僕は残念ながら住宅事情(大きな鍵盤を置く場所がない)の関係上、今はインターフェイスの「THRU」を活用して、DTM用のPC-180をダイレクトにコルグの音源Triton-Rackにいつでもすぐつなげる態勢をシステムに内包することでしのいでいます。(ムム…せめて電気ピアノが欲しい…(>_<))
んで、録音機材の方はどうかというと、実はその後1万円台後半で買ったオリンパスのV-40という「ICレコーダー」に落ち着いています。いろいろ迷ったんですが、結局これに決めた理由は以下のような点が気に入ったからでした。
・操作が簡単。思い立ったら遅くとも10秒後には録音開始可能 ・とにかく小さくて、かさばらない
・内蔵メモリタイプなので、音ネタがかさばらず整理も簡単
・メモリ512MBでWMA録音なら、録音メモとしては不都合なし
・バッテリーが本体充電でなく乾電池、それも1本でOK ・PCへのデータ転送もファイル感覚で、ドライバ不要
・本体がそのままUSB端子状態で、コード要らず
…要するに作曲のためのメモアイテムというのは「その場ですぐ直感的に使えて、手間いらず」というのがポイントなわけです。
絶対音感もなく、譜面もほとんど読み書きできない僕にとって、作曲における1番最初のメモ環境を充実させるということはかねてからの重要課題でした。直感的に操作できるこの小さな機材は、その後結構頼りになる相棒となってくれています。
もう1つ大事なことは、これを常時持ち歩く、家の中なら置き場所を常に決めておくと言うことですかね。なにせ「いつ、どこで、あたかも落雷のように、すばらしいアイディアが天から降ってこないともかぎらない」わけですから。
…とは言いながらたいていは風呂場や寝床でやってくるんですけどね(笑) そんなこともそのうち書いてみたいと思っています(^^)